『化学史研究』第26巻第4号(1999),pp.185-193より
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(このウェブ版では、雑誌に掲載されている表は省略した。)

[資料]『化学史研究』総目次(1974年〜1999年)とその分析
                吉本秀之

  目次
    前書きと分析  1(185)
    総目次 10(194)
    著者名索引 48(232)


前書きと分析

  目的
 今回の総目次の目的は、1974年の創刊号から1999年の第26巻まで(全88号)のすべての目次を提示し、会員の資料として活用していただくことである。埋め草的記事の一部を除き、この総目次は、網羅的であることを目指した。
 合わせて、投稿区分毎に簡単な分析を付して、区分の変遷を明らかにし、今後の雑誌のあり方を考えるうえでの参考としたい。

  インターネットとの緊密な連動

 今回の総目次は、本誌に掲載するだけではなく、基本的に同じ資料をインターネットのホームページにも掲載することを考えて作業を行った。以下に掲載されている本誌の総目次は、編集委員会との緊密な協力のもと誤りなきように努めたが、誤りがゼロであるということの保証は不可能である。そうした誤りが発見された際の修正作業、ならびに定常的な追加作業はホームページ上ではほぼ瞬時に行える。情報の訂正・追加は、次の総目次発行までホームページ上で迅速に行っていきたい。1)
 なお、そのホームページの場所 ( URL ) は、1つは総目次作成者の個人的ページにおかれ、また同じもの(ミラーサイト)が総目次作成者の勤務先の大学のサーバーにおかれる。具体的なサイトは、次の通りとなる。
  http://www.t3.rim.or.jp/~h2ysmt/kagakushi/kagakushi.html
  http://caper.fs.tufs.ac.jp/documentation/ICS/kagakushi/kagakushi.html

  講演要旨の扱い

 『化学史研究』本誌に掲載されているものはすべて、今回の総目次に取り上げるようにした。従って、本誌にレジメが掲載されている限り、今回の総目次にも取り上げている。

  区分

 これまでの投稿規程には、論文と寄書に関する規定しかないが、現実にはかなり多くの区分が用いられてきている。具体的に網羅すれば次の通りである。
 論文;寄書;総説;解説;研究回顧 ;文献解題 ;原典翻訳;資料;技術資料;広場;討論;紹介;論文抄録;巻頭言;追悼;会告;会報;雑報;特集ラヴワジェ研究入門;特集技術史シリーズ;特集教育シリーズ;特集科学史研究の新潮流;特集日本の化学者;特集評伝西洋の化学者;特集日本における伝統技術と化学;年会特集(特別講演、招待講演、課題講演、一般講演、シンポジウム);化学史シンポジウム特集。
 以下の分析では、出来るだけ自然だと思われる分類に即して、それぞれの区分の分析を記す。

*論文と寄書
 投稿規程には、「新しい知見をまとめ一定の結論に導いたものを論文,断片的ではあるが新しい知見を含むものを寄書」とするという定義が掲載されている。論文の定義に問題はないとして、「寄書」という言葉は本来編集長への手紙または寄稿の意味だと思われるが、当誌では他の多くの学会誌に見られる「研究ノート」とほぼ同じ趣旨の記事として活用されてきたと言えよう。
 論文は、1974年から1999年までの26年間で93本掲載されている。これは1年あたりに換算すれば、3.58本となる。会員数400人規模の学会でこの数字が多いのか少ないのか判断は難しいが、1989年のように1本も論文が掲載されなかった年があるのは寂しいと言えよう。
 寄書は、26年間で合計39点掲載されている。年平均では1.5本で、これは、かなりそろって1年に1本または2本という形で来ている。

*総説と解説
 総説は、おそらく研究展望を広い視野で行うものであろう。これまでに全部で5点の総説が掲載されている。なお、学説史を展望するという意味では、最近の特集である「科学史研究の新潮流」(全部で5点)もこれに近いジャンルである。英語では、 History of Science のように展望論文を中心とする科学史の専門雑誌も存在するので、もう少しこのジャンルに力を注いでもよいように思われる。
 解説は、26年間で25点掲載されている。1年にほぼ1本という割合である。外部からはこのジャンルがどういうジャンルなのかわかりづらいが、当誌では日本のある一人の化学者を取り上げ、その人の経歴や業績を解説した記事が11点を占めている。この意味では、やはり最近の特集である「日本の化学者」のシリーズ(8点)と重なっている。

*研究回顧
 これは、化学者自身による自身の化学研究または非常に親しい人(たとえばその人の先生)の化学研究の回顧であり、歴史学ではいわば1次資料に位置づけられる区分である。26年間で7点掲載されている。

*原典翻訳
 26年間で、8点。文字通りに、化学史の原典、すなわち1次資料の翻訳である。その資料の化学史的意義について解説を付して、資料そのものを日本語で紹介する区分である。8点中7点が、最初の10年間に集中しており、化学史学会の若い頃に比較的よく活用されたジャンルと言えよう。

*資料と技術資料
 資料は、1979年から導入された区分であり、通算で42点が掲載されている。第12号(1980年)から前々年度または前年度の「化学史及び周辺分野の出版物」のリストが掲載され始めた。1978年の出版物からリストはあり、これは編集委員会の仕事として原則的にそれ以降毎年掲載されている。これを除けば最近は毎年1点ないし2点の記事が掲載されている。
 技術資料は、1985年と1986年に合計4点掲載されている。第31号の編集後記によればこれは「我が国の技術の発展に貢献した研究や事業を跡づける記念物や史・資料を紹介」するものということである。掲載された4点は、いずれも機器や装置に焦点を合わせるもので、これが今に継続していないのは何と言っても惜しまれる。科学技術の歴史においては、印刷物やノート等の紙の資料だけではなく、当時の人間が使っていた機器や装置は非常に重要なので、技術資料という区分ではなくても機器や装置に関する知見を出来るだけ体系的に収集する努力が望まれるであろう。

*広場
 会員の間の自由な情報や意見の交換の場が、広場というジャンルであろう。26年間で87点が掲載されている。創刊号には2点広場の記事があったが、その後7年間は広場という区分は採用されておらず、広場が積極的に活用され始めたのは1982年からである。その後は、年・総会の報告、春の学校の報告、化学史夏のサロンの報告等が定期的に掲載されるようになった。この10年間では50点が掲載されており、最近ではとてもよく活用されている区分と言えよう。

*紹介と書評と論文抄録
 書評は、2回だけ使われた区分であるが、内容的には全く紹介に重なる。論文抄録は、1979年から81年にかけて計6回利用された区分であるが、これも最近の号では紹介として扱われている。書評並びに論文抄録を含めて、紹介は、これまでに総計169点掲載されている。各年度の掲載点数は、次の表の通り、ゼロの年があったり、25点の年があったりとかなり年度による差が大きい。いずれにせよ、出来るだけ多くの紹介記事が掲載されることが望ましいと言えよう。なお、過去何度かエッセイレビューがこの区分の中で掲載されている。エッセイレビューは、読者には非常に有用な記事である。今後、力を入れるに値すると言えよう。

*討論
 文字通り、特定のテーマに関する討論である。過去5点の記事が掲載されている。なお、そのうち3点が分子概念の成立に関わるものである点は特筆に値する。

*巻頭言
 雑誌そのものには巻頭言の区分は明示されていないが、会長またはそれに準ずる人物による記事で、区分の指定のないまま雑誌の冒頭におかれた文章は、巻頭言と分類した。これまでに10点が掲載されている。

*追悼
 追悼記事は、これまでに19点掲載されている。なお、雑誌中に区分が明示されていなくても明らかな追悼記事は、この欄に分類した。

*雑報
 雑報は、その欧文 NEWS からわかるとおり、新刊の刊行、近い将来に開催される行事等の情報を伝えるニュースである。これまでに31点の記事が掲載されている。

*会報
 総会の決定事項、理事会の議事、会則・細則・投稿規程の変更等、会の運営に関わる重要事項を化学史学会会長や理事会が会員に伝達するものである。これまでに25点の記事が掲載されている。最近、総会決定事項は、毎年必ず掲載されている。理事会報告は、毎年度必ず報告されているわけではない。

*会告
 会告は、原則的に表(とくに表2、すなわち表表紙のうら)において、年・総会やその他の学会行事についてその開催要項や講演募集を行う記事である。今回の分析的総目次は、本体部分(つまり、ページ数が打たれている部分)の総目次作成を目的としたので、本体部分に年・総会のプログラムが掲載されていない場合に限って、表の部分を取り上げている。
 ただしたった1度(1979年の第9号)年・総会の案内が本体部分に掲載されている。

*特集
 編集委員会が企画・実行する特集は、教育シリーズを最初として、ラヴワジエ研究入門、技術史シリーズ、科学史研究の新潮流、日本における伝統技術と化学、日本の化学者、評伝西洋の化学者という7つのシリーズを生み出してきた。
 教育シリーズは、「主として中・高等学校の教師、および教員志望の学生に」中・高等学校の化学を含む教科書に登場する「化学上の重要な概念・原理・法則の歴史的理解を深めるための参考資料を提供する」2)ことを主眼として1981年に開始された。1991年までに合計で21点の記事が掲載された。1981年から1985年の5年間に各年度ほぼ3点ずつ計15点が掲載され、1998年から1991年の4年間に6点が掲載された。本誌を見る限り、現在は「休火山」状態にあるように見える。
 ラヴワジエ研究入門は、ラヴワジエの『化学原論』(1789)出版200年を記念して、1988年に開始した特集である。趣旨は、「ラヴワジエに関する最近の研究成果を出きるかぎりわかりやすい形で紹介・解説する」3)ことであった。1992年までの5年間に計11点が掲載されている。本誌中で終了宣言はなされていないが、おそらくすでに終了したシリーズだと見なしてよいであろう。
 技術史シリーズは、1991年にスタートし、この9年間で、合計25点が掲載されている。これは、年平均2.8点であり、90年代に最も活発に活用された区分と言えよう。開始の際に趣旨説明の記事は掲載されていないが、主として日本の化学工業の様々なテーマについて歴史的に紹介・解説する記事と整理することが出来よう。
 科学史研究の新潮流は、1992年にスタートし、現在までに合計5点の記事が掲載されている。内容的には展望記事であるが、広く科学史に関わるテーマのうち、最近注目すべき展開のあった特定のテーマを取り上げて、研究史を展望するものである。
 日本における伝統技術と化学は、1993年の研究発表会で開催された同名のシンポジウムを1回限りで特集したものである。第21巻(1994)に4点の記事が掲載されている。
 日本の化学者は、1995年にスタートし、これまでに8点の記事が掲載されている。日本の化学の歴史において顕著な功績のある化学者を取り上げ、その人の生涯と業績を解説するものである。前述の通り、この意味では、雑誌の初期に多く活用された解説という区分と多く重なる内容のものである。その化学者の直接のお弟子さんや子息が執筆の労を執られている記事もあり、半ば1次資料として位置づけられるものも含まれる。
 評伝西洋の化学者は、本年度(1999年)に開始したばかりのシリーズである。趣旨は、「化学史上で重要な位置を占めたと考えられる特定の人物に的を絞り、その生涯や作品について、可能な限り最新の研究成果を取り入れた論稿」4)を載せていくことである。すでに2点が掲載されている。

*年会特集
 初年度(1973年)と第2年度(1974年)は、研究発表会のレジメは掲載されておいないが、プログラムは掲載されている。1975年、1976年、1977年の3年は、レジメもプログラムも本誌には掲載されていない。5)研究発表会のプログラムとともに講演要旨が当誌に掲載され始めたのは、1978年(第6年度)からである。
 化学史学会研究発表会は、特別講演(招待講演)、シンポジウム(課題講演)、一般講演からなる。
 特別講演は、学会の特別な方にお話ししていただくか、年会会場に関連してゲストをお呼びしてお話ししていただくもので、招待講演を含めてこれまで27件の特別講演の講演要旨が掲載されている。
 シンポジウムは、1977年の年会から始まり、原則的にそれ以降1年に1本のシンポジウムが企画実行されいてる。なお、これまでに開かれたシンポジウムのテーマは、次表の通りであり、1996年から1998年の3年間は同時に3つのシンポジウムが開催された。テーマとして注記に値するのは、日本の化学史関連が全30回中12回と圧倒的に多く、ついで化学史と化学教育関連が3回開かれている。
 一般講演は、不明な年を除き、23年で212件が掲載されている。これは、年平均9.22 件である。一般講演の件数は、その学会の活力のかなりよい指数となると思われるので、次の通り、年度別の表を作成した。
 なお、正規の年会ではないが、1997年に日本薬史学会との共同主催で大阪で開かれた秋の学校の講演要旨も6点本誌に掲載されている。
 化学史シンポジウムは、日本化学会秋季年会の連合討論会に参加して行われるものであり、化学史学会と日本化学会の共催の会合である。6)1990年にスタートし、1997年の第6回をもって休止している。

    凡例  

・巻号数の表示法
 『化学史研究』では、これまで、2度にわたって巻号数の表示法が変わっている。
 1974年の創刊号から通号17号(1981年)までは、
    <第1号(1974年3月)>
のように通号数(出版年月)のように表示されたが、通号第18号からは
    <1982年第1号(18)>
のように通号数を括弧の中に入れる方式に変わった。7)この方式は、1988年第4号(45)まで続き、その翌年から今度は巻号数方式に変わった。すなわち、
    <第16巻第1号(通号46号)> のように表示されるようになった。現在はこの方式で継続している。
 ここでは、出来るだけ表記を統一するという方針のもと、通号45号までは、
    <第1号(1974年)>
のように通号数(出版年度)という仕方で表示することとし、巻号数方式が採用された1989年からは、
    <第16巻(1989年)>
のように通巻数(出版年 度)という仕方で表示することとした。従って、その後に提示されるページ数は、通巻45号まではそれぞれの号のページ数であるが、1989年の第16巻からは巻での通しページとなり、各号のページ数ではなくなる。若干不便ではあるが、『化学史研究』が途中で巻号数の表示方式を根本的に変更したために余儀なくされた不統一である。ご容赦いただきたい。
 

・作業の出発点
 今回の作業の出発点としたのは、第45号(1988年)の巻末に挿入されている「『化学史研究』総目次第1号(1974年3月)〜1988年4号(通巻第45号)」ならびに、その後各年度の最終号に掲載されているその年度の総目次である。ただし、それぞれ100%正確というわけではなく、いちいち現物につきあわせて確認・修正している。 8)  

・終了ページの明示
 過去の総目次では、それぞれの項目について開始ページだけが表示されている。しかし、今回の作業にあたっては、その記事が1頁のものか10頁のものかということはその記事のもつ意味を判断する上で重要な要素となるので、いちいち雑誌本体にあたって終了ページも表示することとした。  

・講演レジメ
 研究発表会の講演レジメは、第16巻(巻号数表示採用時)以降各年度の最後に掲げられる総目次に取り上げていないが、雑誌の中に独立した項目としてあるものはすべて取り上げるという方針のもと、今回の作業においてリストアップした。
 

・一行で情報が完結するように、すべての記事を次の形式で統一的に記載した。  [区分]著者名「題名」巻号数(発行年):開始ページ - 終了ページ  

・雑誌には区分が明示されていなくても、区分が明らかな場合には、次のように示した。  [-区分-]  

    注

1) 総目次そのものは、まず html 文書として作成し、そこからテキスト文書を生成した。最新のブラウザーを使えば、欧文のアクサンやウムラウトも表示できるようにしている。
 またもととなる html文書がインターネット上で簡単に入手できるメリットは非常に大きい。今回の資料の最後に掲載した「著者名索引」も、編集委員会の要請によりそこから作成したものである。なお、上記のホームページではタイトルを略していない著者名索引も利用可能にしている。
 総目次並びに著者名索引の修正・校正作業では、八耳俊文編集委員に大いに協力していだいた。記して感謝の意を表する。

2) 林良重「シリーズ「化学教育における化学史」を始めるに当たって 」第16号(1981年): 28

3) 大野誠・古川安・柏木肇「特集ラヴワジェ研究入門をはじめるにあたって」第42号(1988年): 28

4) 大野誠「特集評伝西洋の化学者を始めるにあたって」第26巻(1999): 10

5) プログラムは『会報』に掲載されていた。なお私の所持しない『会報』ならびに本誌とは別に出された1975年講演要旨集、1977年講演要旨集については、亀山会長にお貸しいただいた。記して感謝する次第である。

6) 山口達明「新企画・化学史シンポジウムについて 」第18巻(1991): 84

7) 1982年第1号(第18号): 42 の「編集後記」に次の言葉がある。「これまで本誌は通し番号で表示してまいりましたけれども、本号より、1982年第1号という様式(通年制)に改め、定期刊行化(年4回の発刊)を目指しております。」

8) 過去の同種の記事には、次のものがある。
 鎌谷親善・藤井清久・大沢眞澄「公開座談会「化学史研究会10年の歩み」(発言要旨)」第30号(1985): 3-6. これは次の2つの表を含む。
    表1(5頁):第28号(1984年)までの論文・寄書の動向(内容による分類)
    表2(6頁):1984年までのシンポジウムの動向

 柏木肇「50号までの足跡」第17巻(1990): 3-7.  これは、次の5つの表を含む。
    第1表:『化学史研究』の刊行回数
    第2表:論文掲載紙の数
    第3表:年会シンポジウムの動向(続)
    第4表:「春の学校」一覧
    第5表:「化学史サロン―夏の集い」
 [一般講演]大野誠「『化学史研究』20年間の歩み―回顧と展望―」第20巻(1993): 210.
 大野誠「『化学史研究』20年間の歩み―回顧と展望―」第20巻(1993):283 - 293.
 これは、次の5つの表を含む。
    表1:『化学史研究』20年間の足跡―編集面での変化
    表2:各欄の年次別掲載状況
    表3:西洋分野の研究状況
    表4:日本分野の研究状況
    表5:その他
 以上の記事と今回の総目次の差異は次の点にある。 
 1)資料としての総目次そのものの全体の提示、ならびに著者名索引の提示。
 2)さらにその総目次並びに著者名索引に、区分の変遷に焦点を合わせた分析を付したこと。



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