ハートリッブ 2001.8.26
 次の著作の目次を作成しました。
Samuel Hartlib & Universal Reformation: Studies in Intellectual Communication
 若干紹介しておきましょう。サミュエル・ハートリッブは、市民革命期のイギリスで、さまざまな改革運動の中心として活躍したドイツ人です。世紀の変わり目当たりに、エルビングに生まれ、1620年代にケンブリッジで学ぶため渡英し、1662年その地で亡くなるまで英国で、フランスのメルセンヌ、王立協会秘書オルデンブルグ、に並ぶ、当時の手紙のよる国際的な情報交換網の結節点に位置する人物です。
 とくに彼が重要なのは、その広範囲にわたる情報交換網の結果たる非常に多くの手紙が、もちろん全部ではありませんが、相当割合残っているということです。現在はそうした手紙と、以前から有名だった彼の日記は、イギリスのシェフィールド大学に保管されていて、ハートリッブ・ペーパーズ・プロジェクトの結果誰にも利用可能になっている点です。これは、当時の多面的な改革運動を知るための格好の資料というだけではなく、17世紀なかごろの科学史・技術史にとっても非常に重要な資料です。
 論集の序文が、ハートリッブ研究史を的確に整理してくれています。それをかいつまんで紹介しましょう。
 ハートリッブの再発見は、20世紀の現象です。その最初は、ジョージ・ターンブル ( George Turnbull) というリバプール大学の若き教育学者でした。古典教育を中心として受けた語学に有能な人物です。彼の、 Samuel Hartlib. A Sketch of his life and relations to J.A. Comenius は、1920年オックスフォードから出版されています。
 このターンブルが、1933年ハートリッブ・ペーパーズのかなりの割合をふとしたきっかけで発見します。(ハートリッブ生存中の火事で一定割合は焼失していました。また、一部は、ハンス・スローンのコレクションとして、British Library に移されています。また、一部は、1957年イェール大学のオズボーン・コレクションに買収されています。)1922年以来、シェフィールド大学教育学教授となっていたターンブルは、発見した草稿群をシェフィールド大学に移します。そして、草稿の目録作成にとりかかり、一部の草稿の転記・活字化の作業に専念します。そうして生まれたのが、Hartlib, Dury and Comenius という書物で、1947年に出版されています。
 次いで、有名な歴史家トレヴァー-ローパーが「3人の外国人と英国革命の哲学」という重要な論文を1960年に発表します。
 その次が、チャールズ・ウェブスターの大著『大革新』(1975)です。ウェブスターは、ターンブルを継いでシュフィールド大学教育学教授となったアルミテージと協力して、研究しています。ここで個人的な告白をすると、大学院時代(今から網20年近く前ですが)この600頁に近い大著は、読み始めたのはいいのですが、3分の1ぐらいで頓挫しています。ともあれ、すごくよく調べられている本で、ハートリッブ研究の基盤を築いたと言ってよいでしょう。(ハートリッブ・サークルだけではなく、空位期のいろんな科学・技術・医学に関する活動をほぼ網羅的に扱っています。)
 そして、この本につながります。この論集そのものは、1992年7月6日に開かれた「平和、統一、繁栄:17世紀における学問の進歩」というシンポジウムの結果です。ハートリッブ・プロジェクトそのものは、1994年にシェフィールド大学に保存されている全てのハートリッブ・ペーパーズ(草稿の総ページ数は、2万ページを超え、印刷物は7千ページを越えます)をCD-ROM で出版することに成功しています。また、このプロジェクトの中心人物のひとり、グリ−ングラスがハートリッブの日記、Ephemeridesの出版を準備しているということです。
 というわけで、ハートリッブに関する基本的な1次文献と2次文献は、次の通りです。
    1次文献
  Hartlib Papers in CD-ROM
Hartlib's Diary Ephemerides ( in preparation)
    2次文献
George Turnbull, Hartlib, Dury and Comenius ,London,1947.
H.R. Trevor-Roper ( Lord Dacre), ' Three foreigners and the philosophy of the English Revolution', Encounter, 14 (1969), 3-20.
Charles Webster, The Great Instauration: Science , Medicine and Reform 1626-60, London, 1975.
Mark Greengrass, Michael Leslie and Timothy Raylor (eds.), Samuel Hartlib & Universal Reformation: Studies in Intellectual Communication, Cambridge: Cambridge University Press,1994.

 また、次の本は、この草稿を十分に利用した非常によい研究です。
    John T.Young,
    Faith, Medical Alchemy and the Natural Philosophy:
    Johann Moriaen, reformed inteligencer and the Hartlib Circle,

    Ashgate,1998
Johann Moriaen ( c.1591-c.1668)は、オランダに暮らした人物で、商売をしていましたが、コメニウスに由来するパンソフィー(汎知主義)と創造の鍵としての錬金術にコミットしています。ハートリッブほど積極的に改革運動のために走り回ったわけではありませんが、やはり一種の「知識と情報」の商人(運び屋)の役目を果たしています。たとえば、一時期オランダで暮らしたグラウバーと言うこの時代の非常に重要な錬金術師に関して空白だった部分の多くの点が、この研究で明らかにされています。

 詳しくは、次のシェフィールド大学のハートリッブ・ペーパーズ・プロジェクトのページをご覧下さい。 Hartlib Papers Project
google の日本語で検索したときヒットしたのは次のページだけでした。
「国文学とコンピュータ(国文学研究資料館における事例研究)」原正一郎(国文学研究資料館研究情報部助教授) 
 それほどの値段でなければ買おうかなとおもって値段を調べると、CD-ROM2枚組で約5千ドル。(今のレートだと60万円弱。)買ってみるということが出来る値段ではありません。図書館に入れてもらう種類のものでしょう。(販売元は、UMI)
 

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