ちびどもといっしょに7時前。まだ雨は降っていませんが、雨模様の空。[新潟大学所蔵、オクラホマ大学所蔵科学史関係文献コレクション]
新潟大学に資料の調査に行ってきます。→9時12分発マックス朱鷺という上越新幹線にしました。おお、なんと終点まで無停車、ノンストップです。乗車が1時間40分程度で、10時50分頃に新潟駅に着きました。その後、どういうルートで大学まで行くのか考えていなかったのですが、せっかく切符も買ったことですし、越後線で新潟大学駅前まで行くこととしました。おお、これも、見事な雪国のローカル線。ドアは自分(乗客)が開け閉めする方式となっていました。
駅から大学までの地図をプリントアウトして持参するのを忘れていたのですが、まあ、地元の大学生らしいものについていけば大丈夫だろうと駅を降りると、かなり大きな大学までの看板があり、道に迷うことはありませんでした。駅から大学までおよそ20分ぐらいでしょうか。
東京の基準で言えば、新潟大学はかなり広いキャンパスですが、図書館はわかりやすい位置に(たいてい)あるので、すぐに辿り着きました。12時10分前ぐらい。
外大の図書館からすでに照会してもらっていたので、受付で用件を伝えるとすぐに対応してくれました。教官閲覧室という普段は鍵の掛かっている部屋に、「オクラホマ大学所蔵科学史関係文献コレクション」は保管されていました。
担当してくれた方は、マイクロフィルムでもマイクロフィッシュでもない、と教えてくれましたが、実物を見ればわかるでしょう、とまずは、カタログを見せてもらいました。
D.H.D. Roller and M.M. Goodman (eds.),
The Catalogue of the History of Science Collections of the University of Okhahoma Libraries,
2 vols., Marsell, 1976.
アメリカの議会図書館の目録と同じく、カードを整理して、それを写真にとり、縮小しページとする形式のカタログでした。文字が小さく、老眼の進む私の目ではぎりぎりでした。(あとで、受付で、拡大鏡を借りました。)
説明を読むと、これは、オクラホマ大学の科学史コレクション約4万点すべてのカタログでした。普通の本の形で蔵書しているもの、ヴァチカンの貴重書図書のマイクロフィルム、それにお目当ての「Microprint: Landmarks of Science」約1万点がすべて記載されています。
さて、「マイクロフィルムでもマイクロフィッシュでもない」というのは、マイクロプリントでした。たぶん、印画紙に、5×9段=45のショットを縮小して焼き付けています。つまり、1枚の印画紙に90頁が収められています。それを幅10センチ弱の箱に分けて収納していました。収納棚2つ分ありました。我々が普通に使っている本棚2つ分ぐらいです。
見たことがない形式です。たぶん、大型コレクションとして特別科研で購入したときに、専用のリーダーマシーンが添付されていたようです。そのマシーン、Readex Microprint Opaque Viewer model 7 という、英語の説明書しかない、3本足のプラグのマシーンで、拡大して見るわけです。
焦点の合わせ方にしばらく苦労しました。2段階の倍率があり、まるで時計のネジのように焦点をあわせるダイヤルを引いて、くるくるします。わかってしまえば、なんてことはありません。画面もしっかり見えます。(状態のよいマイクロフィルムと同程度。)
作業の最後のころにわかったことですが、本の形のカタログではなく、「Microprint: Landmarks of Science」に収められているものに関しては、別に、昔のタイプの図書館蔵書カードがありました。4箱。文字の大きさから言っても、このマイクロプリントの利用には、この旧式のカードの方が向いています。(帰りに図書館で親切に対応してくれた係の方には、伝えておきました。)さて、「Microprint: Landmarks of Science」約1万点にどの程度のものがあるのか? それが一番の問題です。
私の詳しい分野で、サンプルとして例を挙げます。
アコスタは、セヴィリアで出版されたスペイン語版だけがありました。
アゴリコラは、次の4点。
G. Agricola, De re metallica dialogus,1556
G. Agricola, De ortu & causis subterraneorum, lib. V, et al.,1546.
G. Agricola, De animantibus subterraneis libro usus,1549
G. Agricola, De mensuris et ponderibus, 1533
パラケルススは、8点。1658年ジュネーブで出版されたラテン語の『医学-化学-外科学著作集』は入っています。
ボイルは、25点。(ボイルの出版物の約半数強。)1744年の最初の全集があります。だいたい、こんな感じです。
さて、カタログには記載されていませんが、「Microprint: Landmarks of Science」の第二シリーズとして、科学雑誌があり、王立協会哲学紀要や、フランス科学アカデミーのメモワール等、有名なものはだいたい収められているようでした。(こちらはそれほど丁寧にはチェックしていません。)
こんなちいさな文字をずっと読んでいると、頭と目が破裂しそうです。私の目的のものは、このコレクションにはない(ウェルカム・ライブラリーにもない非常に珍しいものを探しています)ことを確かめ、コレクションの様子もつかめたので、調子を悪くしないうちにおいとますることにしました。だいたい、4時。
新潟は、ロンドンより寒く、ずっと曇っていたので、ロンドンと同じくらいの暗さでした。雪国に暮らしたことはないので、1カ月、2カ月と続く状況はわかりませんが、午後4時は、帰る暗さとなっています。
親切に世話をしてくれた図書館の方にお礼を言って、新潟駅に向かうこととしました。今度はバスに乗ってみることに。電車よりもバスの方が街の様子がよくわかります。バス停で10分以上待ってから乗車。
[評価:おみやげ]
お土産ですが、麩はおいしい、烏賊の塩辛はとてもおいしい、漬け物はしょっぱすぎ、蟹蒲鉾はこどもたちに人気、チョコレートはフレイバーが子どもの下には辛く感じたようです。お団子も私にはちょっと甘すぎますが、子どもたちには人気でした。[評価:オクラホマ大学所蔵科学史関係文献コレクション]
理想的にはどうあるべきかを先に記します。
「Microprint: Landmarks of Science」約1万点をすべて、ウェブキャットから検索をかけられる状態にしてあるのが望ましい。今、マイクロフィルムは、一部ウェブキャットから検索できます。それと同じ形がよい。(検索結果に、マイクロプリントと明示すればそれで本と間違われることはありません。)
科学史コレクションとしての評価。新潟大学が科研費の大型コレクションで購入した時点では、日本国内にこれに匹敵するコレクションもなく、圧倒的な量を誇ることができました。
たとえば、私の詳しい分野で例を示しましょう。日本の科学史の中心であるべき(スタッフの数と専門大学院の発足の時期と看板の点で)東大駒場の図書館には、ボイルの1772年の全集版(フォリオの6巻組、第2版)がありました。しかし、他には17世紀に出版されたボイルの著作はまったく入っていませんでした。(今もないと思います。)かろうじて『懐疑的化学者』のドーソンによるリプリントが入っていました。(リプリントは他にも何点か。)
大学院の博士課程に在学しているときに、(まだインターネットが使える状態ではなかったので)実際に科学史のコレクションを有している国内の大学は、実際に足を運んで、どういうものがあるのか、そう、昔はみんなそうして文献調査をしていたあの旧式の図書カードを繰って調べました。それは、一世代を風靡したカードにとっています。(まだ棚にあります。)しかし、それは、バインダーひとつに収まる量しかありません。
たぶん、私が大学院博士課程後期に在学している頃から、日本の経済力を反映して、欧米で製作された科学史を含む大型のマイクロフィルムコレクションが日本のいろんな大学に納入されたようです。
しかし、情報がないとそれはないに等しく、21世紀になるまで、どこにどういうコレクションが収められているのかほとんど知りませんでした。
(私の学部時代の師匠、渡辺正雄先生が新潟大学に「オクラホマ大学所蔵科学史関係文献コレクション」を購入されたことは噂には聞いていましたが、どういう種類のコレクションでどの程度の文献が収蔵されているのか詳しく教えてくれる方は私のまわりにはいませんでした。)
状況が一変したのは、インターネットの普及、ガリカの活動、グーグルの出現、ウェブキャットの整備、そして、イーボやエッコ、「近代経済学の形成」といった網羅的なコレクションがウェブ上で利用できるようになってからのことです。
「Microprint: Landmarks of Science」約1万点で言えば、購入時と比べて、価値はたぶん10分の1程度になったのではないでしょうか。
ガリカ、イーボやエッコ、「近代経済学の形成」に収められていないものが 「Landmarks of Science」にあれば、新潟大学のコレクションに価値があります。ただし、カタログが手元になければ、何が「Landmarks of Science」に収録されているのかわからないので、実際のところ、今、「Microprint: Landmarks of Science」約1万点にどれだけの価値があるのかは、正確に査定することができません。(10分の1というのは私の目算の評価にすぎません。)研究者の側の論理ですが、ウェブで検索をかけられることと同時にカタログそのものをウェブ上に公開してほしい。そうすれば、そのコレクションの利用価値を査定することができます。
あとは、少し脱線的に。
一橋大学に「カール・メンガー文庫」という社会科学の貴重書・古典を多数所蔵する非常にすぐれた文庫があります。ウェブで見た情報では、2万点ということですから、「Landmarks of Science」の倍の量です。
カタログは、戦前に第1巻(『東京商科大學附屬圖書館 カール・メンガー文庫目録』Tokyo : Bibliothek der Handels-Universitat Tokio, 1926, 732 columns )が出版され、1955年に第2巻(『一橋大学附属図書館カール・メンガー文庫目録・2』Tokyo : Bibliothek der Hitotsubashi-Universitat, 1955, ix p., 733-1154 columns)が出版されています。
この文庫の所蔵されている書物は、今現在、ウェブキャットの検索にかかるようになっています。
ということで、このメンガー文庫が日本で唯一(ウェブキャットで調べがつく範囲では)アグリコラの『デ・レ・メタリカ』の原典を所蔵しています。
De re metallica libri XII.
1. De animantibus subterraneis. lib. I.
2. De ortu & causis subterraneorum. lib. V.
3. De natura eorum quae effluunt ex terra. lib. IV.
4. De natura fossilium. lib. X.
5. De veteribus & novis metallis. lib. II.
6. Bermannus sive De re metallica, dialogus. lib. I
Basileae : Sumptibus & typis Emanuelis Konig, anno 1657
このバーゼルで1657年に出版された版は、巨大フォリオで800頁にのぼる浩瀚な書物で、鉱物学関係の重要な書物は全部含む、アグリコラ全集と呼びたくなるぐらいの大きなものです。(実物は未見。)私が問題だと思うのは、このカタログを所蔵する図書館の少なさです。ウェブキャットを信じる限り、日本でたった32〜33館程度しか『カール・メンガー文庫目録』を所蔵していません。
ほんとうは、少なくとも3桁に達してないといけないのではないかと思われます。ちなみに、ウェブの情報によれば、1994年にこのコレクションそのものを、丸善と富士写真フイルムが(たぶん)全巻マイクロフィルムにとり、販売したようです。ウェブキャットでは5館がこれを購入しています。
なお、今回の調査の最中に、次の著作が「九大医 医分」(九州大学医学部図書館医学部分館の意か)にあることがわかりました。
Giunta, Tomaso, (Junta, Thomas) (1494-1566) ed.,
De balneis omnia quae extant apud Graecos, Latinos, et Arabas, tam medicos quam quoscunque ceterarum artium probatos scriptores: qui vel integris libris, vel quoquo alio modo hanc materiam tractauerunt: nuper hinc inde accurate conquisita & excerpta, atque in unum tandem hoc volumen redacta : In quo aquarum ac thermarum omnium, quae in toto fere orbe terrarum sunt, metallorum item, & reliquorum mineralium natur[ae], vires, atque usus exquisitissime explicantur: Indicibus quatuor appositis, quorum primus auctores omnes, qui in hoc volumine habentur: secundus balneorum nomina: tertius capita cuiuscunq[ue] libri: quartus mirabiles curationes in his libris contentas, que vi ac beneficio balneorum factae fuerunt, complectitur : Opus nostra hac aetate, in qua tam frequens est thermarum usus, medicis quidem necessarium, caeteris vero omnibus tum summopere vtile, tum etiam periucundum.
Venetiis : Apud Iuntas, 1553
次のものを収録しています。
De balneis & Thermis uniuersalibus
Savonarola Michele ; De balneis Patauinis
Montagnana Bartholomaeus ; De balneis ciuitatis A quesis in Monteferrato
Guainerio Antonio ; Recepta aquae balnei de porretta, edita per egregium militem, aclegum doctore, & magistru artium, & medicinae doctorem, dominum Turam de Castello, Bononiae ciuem
Castelli Bonaventura ; De balneorum Italiae proprietatibus
Ugolino da Montecatini ; De balneis
Bianchelli Mengo ; Patauini de fontibus calidis agri Patauini
Dondi dall'Orologio Giovanni, Dondi dall'Orologio Jacopo ; De fontibus Aponi
Claudianus Claudius ; De balneis Aponi eplstola
Theodoric King of the Ostrogoths ; De fontibus Calderianis in agro Veronensi
Panteo Giovanni Antonio ; De balneis Calderii
Aleardus de Pindemontibus ; De balneo Porrettae, & aliis
Baviera Baverio ; De balneis Lucensibus Villae & Corsennae
Bendinelli Matteo ; De balneo Corsennae
Bertolini Lorenzo ; De balneo Villensi
Franciotti Giorgio ; De balneis
Gentile da Foligno ; De balneo Petrioli consilium
Casini Francesco ; De aquis Calderianis
Fumanelli Antonio ; De balneis Sancti Pancratii agri Bergomatis
Zimaglia Lodovico ; De thermis Rheticis agri Bergomatis
Grataroli Guglielmo ; De balneis Burmi apud Volturenos
Pietro da Tossignano ; De Masinensibus & Burmiensibus thermis
Paravicini Pietro Paolo ; De thermis Patavinis, ac de quibusdam Italiae balneis
Pasini Lodovico ; De balneis Puteolanis
Alcadino ; De totius Campaniae balneis
Elisio Giovanni Battista ; De rerum natura
Lucretius Carus Titus ; Ex Metamorphoseos libro. xv
Ovidius Naso Publius ; Ex libro Meteororum de fontibns & fluminibus
Pontano Giovanni Gioviano ; Ex Consiliis, excerpta de balneis
Benzi Ugo ; Excerpta de balneis
Saint-Amand Jean de ; Turrisani seu plusquamcommentarri, Balnean di Canones ; Ex Conciliatore excerpta de balneis
Petrus Abano ; An balneum Articulari morbo competat
Cardano Girolamo ; Excerpta de aquis
Vitruvius Pollio ; Excerpta de aquis
Seneca Lucius Annaeus; Ex libro de naturali historia, de aquis
Pliny the Elder ; Excerpta de mineralibus simplicibus & aqua
Dioscorides Pedanius of Anazarbos ; De balneis dialogus
Brancaleoni Giovanni Francesco ; De balneis
Barzizza Cristoforo ; Ex compendio medicinae excerpta de balneis
Fuchs Leonhart ; De natura eorum quae ex terra effluunt
Agricola Georg ; De Germaniae & Helvetiae thermis
Gesner Konrad ; Epistola de balneis Helvetiae
Bracciolini Poggio ; De balneis Calderianis epistola
Massa Niccolo ; Consilium de balneis Aquensibus
Delfino Giulio, Cellanove Giovanni Andrea, Paterno Bernardino ; Excerpta de balneis
Celsus Aulus Cornelius ; Thermae ad Timavi ostia
[Rapicio Giovita] ; Ex continente, excerpta quae ad aquas & balnea pertinent. & ex eiusdem lib. ad Almansore & Herculani comentariis excerpta
Razi Abu Bakr Muhammad ibn Zakariya ; Herculani comentariis ad Almansorem, excerpta de balneis & ex eodem in Auicennam ; Excerpta , quae ad aquas & balnea pertinent
Ibn Sina ; Ex Syrasis Arabis in Auicennam commentariis
Ibn Sina ; Ex eiusdem expone in Auic
Gentile da Foligno ; In Auicennam, excerpta de balneis
Desparts Jacques ; In Canticam Auicen, excerpta de balneis & ex eius Colliget
Averroes ; Ex Mesuae Canonibus universalibus, ac ad eius expositoribus , excerpta de balneis
Pseudo-Mesue ; Ex eius additionibus in Mesuem
Petrus de Abano ; De balneis
Francesco di Piedimonte ; Excerpta de balneis
Ibn Serapion Yuhanna ; Excerpta quae ad balnea faciunt
Avenzoar ; Excerpta de balneis
Maimonides Moses ; Aphorismi
Ibn Masawayh Yuhanna ; De aquarum natura, et de balneis
Hippocrates, Galen ; Problemata
Aristoteles ; Excerpta de aquis & balneis
Oribasius ; Excerpta de balneis
Aretaeus of Cappadocia ; Excerpta de balneis
Alexander of Tralles ; Excerpta de balneis
Aetius of Amida ; Excerpta de balneis
Paulus Aegineta ; De balneis ex Hippocrate & Galeno
Sicco Giovanni Antonio
これは壮観です。16世紀半ばにおける温泉論(鉱水論)集大成の観を呈しています。著者の数にしておよそ70名。タイトルに明示されているように、多くは"Excerpta"(抄録)ですが、それにしても圧倒的な数です。財政的に言うと、医学部図書館にもっとも貴重書が多く所蔵されている可能性があります。とりあえず、九大の医学部の貴重書リストがありました。
九大医学部貴重書リスト